(特集記事)「やさしい日本語」で広げる、みんなにやさしい社会ー今日から始められる、思いやりのコミュニケーションー
私たちの身近な場所で、外国にルーツを持つ方とすれ違ったり、日常生活や仕事で関わったりする機会が増えてきています。そのようなとき、「外国語が話せない」「言葉がうまく伝わらないかもしれない」と、コミュニケーションに不安を感じてしまう方も多いのではないでしょうか。
2026年1月現在、東京で暮らす外国人の数は約78万人にのぼります。 東京の総人口の約5.5%、実に「20人に1人以上」が外国人となっており、10年後には「10人に1人」の割合になるという試算もあるなど、今後も増加が見込まれています。
このような状況の中、普段使っている「日本語」を少し意識して話すだけで、言葉の壁を越え、お互いの気持ちがぐっと伝わりやすくなる工夫があります。それが「やさしい日本語」です。
今回は、財団の広報担当が、やさしい日本語の普及に取り組んでいる多文化共生課の担当者に、今日から始められる「日本語をより伝わりやすくする小さな心がけ」について聞きました。
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命を守るために生まれた「やさしい日本語」
「やさしい日本語」は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに生まれました。 災害時の混乱の中、命を守るための情報が十分に伝わらず、外国人住民の死傷者の割合が日本人住民よりも高かったことから、いざというときに、外国人住民にもいち早く正しい情報を届けるための研究が始まったのです。
海外にも、公用語を母語としない人たちに情報をわかりやすく伝えるための取り組みがあります。たとえば英語園の国々で活用されているプレイン・イングリッシュ(Plain English)では、「一文は●●ワード程度」といったガイドラインが設けられています。
一方で、やさしい日本語には、必ず守らなければいけないルールや正解はありません。だからこそ、相手の反応や様子を確認しながら伝え方を工夫し、歩み寄っていく姿勢が大切になります。目の前の相手に合わせて、言葉や文章を調整していくことが「やさしい日本語」の特徴なのです。
相手に伝わりやすくするポイント「は・さ・みの法則」
コミュニケーションにおける無意識のクセに気づき、より相手に伝わりやすくするために心がけたいこととして、「はさみの法則」と呼ばれる3つのポイントがあります。
• は(はっきり言う):発音も、内容も、はっきり言う。 曖昧な表現や、言葉の省略はできるだけ避け、「ここにあなたの名前を書いてください」のように、日本語初級者にもわかりやすいように、はっきり伝えましょう。
• さ(最後まで言う): 言いにくいことも、途中で止めずに最後まで言い切る。 「今日は仕事があるのでちょっと…」というように、文末を濁して相手に察してもらうような言い方をしてしまいがちですが、「今日は仕事があるので行けません」というように、文の最後までしっかり言い切ります。
• み(短く言う): 追加情報を足して文を長くせず、一文を短く区切る。 「まっすぐ進んでください。角を左に曲がってください。右に郵便局があります。」のように、文を短く区切り、一文で伝えたいことが一つになるようにします。
やさしい日本語にルールがないのは、「伝わること」を何より大切にしているから。 言葉や文章を調整するだけでなく、ジェスチャーを交えたり、実物や写真・イラストを見せたりすることも有効です。ほんの少し意識を変えるだけで、コミュニケーションが驚くほどスムーズになるはずです。
英語よりもやさしい日本語、動画で学ぶ今日から使えるヒント
「外国人には英語で対応した方がいいのでは?」と、思う方もいるかもしれません。けれども、日本で暮らす外国人の8割以上はアジア圏の出身者です。英語を公用語としない国から来た方も多く、必ずしも英語がわかるわけではありません。
一方で、出入国在留管理庁が在住外国人を対象に行った調査では、「日本語でどの程度会話できますか?」という質問に、およそ8割の方が、「基本的な情報交換ができる」、もしくはそれ以上のレベルだと回答しています。思ったより日本語を話せる外国人が多い、と感じた方もいるのではないでしょうか。
実際に外国人の方たちからは、「やさしい日本語で話してもらえると、嬉しい」「日本語にまだ自信がなかった頃、やさしい日本語で話してもらえたことをきっかけに、もっと日本語の勉強を頑張りたいと思った」といった声が聞かれます。
また、財団が実施した在住外国人への情報伝達に関する調査では、約8割の外国人が「大切な情報にやさしい日本語の説明があった方がいい/自分は使わないが必要だと思う」と答えています。
こうしたニーズを背景として、災害時の外国人への情報伝達手段として生み出されたやさしい日本語は今、医療、行政、教育など幅広い分野で使われるようになっています。
私たちは、やさしい日本語をさらに多くの方に活用していただくために、動画「伝わる・つながる やさしい日本語 ~外国人に やさしく伝えるためのポイント~」を作成、東京都多文化共生ポータルサイト(TIPS)にて公開しています。
【ポイント動画一覧 | TIPS(東京都多文化共生ポータルサイト)】
https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/yasanichi/point_movie/
日常のよくあるやり取りや災害時の避難など、19の場面を扱った動画を提供しているので、ご自身にとって身近な場面の動画からご覧ください。通常の日本語の会話と、やさしい日本語の会話が比較できるほか、各動画にやさしい日本語のポイントが入っているので、すぐに使えるヒントが見つかるはずです。1本あたり3分程度の短い動画なので、気軽にご視聴いただけます。
完璧を目指さなくていい。歩み寄るための2つのやさしさ
「やさしい日本語」の「やさしい」には、2つの意味が込められています。簡単で分かりやすいという「易しい(EASY)」と、思いやりがあって親切であることを意味する「優しい(KIND)」です。分かりやすい言葉を選ぶ工夫だけでなく、こちらから歩み寄ろうとする姿勢を持つことこそが相手に安心感をもたらし、心を通わせるきっかけを作ってくれます。
一方で、まったく日本語がわからない方と接するときや、やさしい日本語にするのが難しい場面では、スマートフォンの翻訳アプリや通訳を活用するなど、多言語対応とやさしい日本語を両輪で進めていくことが必要です。
大切なのは目の前の人がどうすれば理解しやすいかを想像し、必要な情報をきちんと届けることです。状況に応じて、便利なツールを取り入れることも、やさしいコミュニケーションの形の一つです。
多様な人に安心を届けるための、言葉のユニバーサルデザイン
情報を受け取る相手に合わせて、伝え方を調整する――思いやりのコミュニケーションツールであるやさしい日本語でサポートできるのは、日本語を母語としない外国人だけではありません。お年寄りや小さなお子さん、障がいのある方など、多様な人に安心を届けることができます。
また、やさしい日本語の考え方は、職場の同僚や友人、家族など、誰とコミュニケーションを取るときにも役立ちます。特定の誰かのためだけでなく、すべての人に情報や気持ちが届きやすくなることから、やさしい日本語は「言葉のユニバーサルデザイン」とも呼ばれています。
やさしい日本語は、決して難しいことではなく、日々の生活の中ですぐに始められる小さな心がけです。もし身のまわりで困っていそうな人や、助けを必要としている人を見かけたら、そのときは、ぜひ「やさしい日本語」で声をかけてみてください。
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取材を終えて
今回は、「やさしい日本語」が生まれた背景や、その基本的な考え方について改めて話を聞きました。なかでも、「目の前の人がどうすれば理解しやすいかを想像し、必要な情報をきちんと届けることが大切」という担当者の言葉が強く印象に残っています。外国人に向けた配慮にとどまらず、日々のコミュニケーションにおいても、この姿勢を大切にしていきたいと感じました。