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多文化共生コーディネーター研修が育てる「つなぐ人」 ー一人では解けない地域課題に、立場を越えて向き合うー

東京都に暮らす外国人住民は80万人を超えました。全国の都道府県で最も多い数です。人口のおよそ18人に1人を占めています。

外国人住民の増加と定住化が進むなか、求められているのは支援の充実だけではありません。多様な住民が共に暮らす社会づくりに向けて、異なる立場の人や組織をつなぎ、地域の課題解決を支える人材が重要になっています。

こうした人材を育てるのが、当財団が東京都との共催で実施している「多文化共生コーディネーター研修」です。

本研修は財団の前身団体から続く事業で、今年度で第10期を迎えました。2017年度の開講以来、これまでに延べ339名の方が受講しています。

研修の全体風景
研修の全体風景

全体監修をお願いしているのは、明治大学の山脇啓造教授です。多文化共生を長く研究し、東京都の多文化共生推進委員会の委員長も務めています。

多文化共生をめぐる課題が変化するなか、この研修にはどのような役割が求められているのでしょうか。

本研修の立ち上げ時から関わってこられた山脇教授に、研修のねらいと、これからの多文化共生について伺いました。


多文化共生コーディネーターは「つなぐ人」

多文化共生とは、「国籍等の異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」。2006年に総務省が策定し、2020年に改訂された「地域における多文化共生推進プラン」で示された定義です。

つまり、育った国も文化も違う人たちが、同じ地域の一員として一緒に暮らしていくということです。

山脇教授は、同プランの策定を検討した研究会で座長を務め、改訂時にも同じ役割を担いました。研修の全体監修を務める立場から、受講者に身につけてほしい力を次のように話します。

「多文化共生をめぐる課題は、日本語教育、子どもの教育、医療・福祉、就労、防災など非常に幅広く、一人の専門家や一つの部署だけで解決できるものではありません。

受講者には、地域にどのような課題があるのかを把握し、必要な人や組織をつなぎ、関係者と一緒に解決策を考えていく力を身につけてほしいと思っています」(山脇教授、以下同)

明治大学 山脇啓造教授
明治大学 山脇啓造教授

では、多文化共生コーディネーターは、地域で何をする人なのでしょうか。

「一言で言えば、『つなぐ人』です。外国人住民が何か困難を抱えたときに、コーディネーター自身がすべてを解決するのではありません。その人が何を必要としているのかを見極め、適切な制度や専門機関につなぐことが重要です。

しかし、それだけではありません。個別の相談を重ねていくと、『これは一人だけの問題ではなく、地域の仕組みの問題ではないか』と見えてくることがあります。そうした気付きを行政の施策や地域の取り組みの改善につなげていくことも重要です」


行政、国際交流協会、市民団体が同じ場で学ぶ

研修を誰に向けたものにするかについては、始めたときからの考え方がありました。

「当初から行政三分の一、国際交流協会三分の一、市民団体三分の一ということを目標にしてきました。多様なセクターにいる人たちが一緒に学ぶ研修を、とても大事にしてきました」

発表の様子 
発表の様子 

同じ場に集まることの意味を、山脇教授はこう説明します。

「行政、国際交流協会、市民団体など、立場の異なる人たちが一緒に研修を受ける機会は決して多くありません。だからこそ、この研修では幅広い地域の関係者とつながり、意見交換ができ、一緒にプランを練ることもできる。本当に貴重な場になっていると思います。

市民団体の方たちにとって、行政はハードルが高くて、なかなかコミュニケーションを取りにくい。一方、行政の方たちは、普段、市民団体の方たちと距離をとりがちです。こういう場だからこそ、ざっくばらんな意見交換ができるのだと思います」

研修は複数日にわたるため、自治体の職員がまとまった時間を確保するのは簡単ではありません。それでも、立場の違う人がそろって学ぶことを大切にしてきました。


学びを、地域での実践につなげる

この研修は、知識を持ち帰るだけでは終わりません。

そのためプログラムは、多文化共生の全体像をつかむ講義から、分野ごとの講義、グループワーク、現場を訪ねるフィールドワーク、振り返りまで、段階的に組み立てられています。

講師陣に加えて、現場で活動する多文化共生コーディネーターがファシリテーターとして参加するのも特徴です。

「ファシリテーターは単に研修を進行する役ではなく、実際に多文化共生の現場で活動している、多文化共生コーディネーターのロールモデルともいえる存在です。受講者にとって、講義で知識を得るだけでなく、コーディネーターが現場でどのように考え、どのように人をつないでいるのかを、直接聞いて知ることには大きな意味があります」

グループワークの様子
グループワークの様子

研修の最終日には、受講者が自分の地域や職場で何に取り組むかを、3か年のアクションプランとして発表します。

「研修を『学んで終わり』にするのではなく、自分の地域や職場に戻って何に取り組むのかまで具体化することが大切だからです」


10年で、課題はどう広がったか

研修が始まった2017年度からの10年間で、多文化共生を取り巻く環境は大きく変わりました。日本に住む外国人は増え続け、2022年末から2025年末までの3年間だけでも約100万人増えています。

「研修を始めた当初から、外国人住民への生活支援だけを考えていたわけではありません。ネットワークづくりや外国人住民の社会参加、地域への意識啓発も重要なテーマでした。

ただ、この10年間で外国人住民が増え、定住化も進み、多文化共生に関わる課題がさらに幅広くなってきました。それに伴い、自治体に求められる役割も大きくなっています。

そして最近、特に重要になっていると思うのが、外国人住民を受け入れる地域社会の側への働きかけです。外国人住民への支援を充実させるだけでなく、日本人住民が抱く不安や疑問にも向き合い、相互理解を進めていく必要があります。

『外国人住民をどう支援するか』に加えて、『多様な住民が共に暮らす地域社会をどうつくるか』という視点が、以前にも増して重要になっていると思います」

こうした状況のなかで、多文化共生コーディネーターに求められるものも変わってきています。
「外国人住民への支援だけでなく、地域社会全体に目を向け、さまざまな立場の人たちの声を聞きながら、課題を整理し、解決に向けて関係者をつないでいくことが大切です」


国・自治体・企業・市民社会でつくる、これからの多文化共生

山脇教授は、日本の多文化共生の展開を三つの段階でとらえています。まず、外国人住民への生活支援を中心とする段階がありました。次に、外国人住民自身も地域の担い手となる段階が続きます。そしていまは、国や自治体、企業、市民社会が連携して共生社会をつくる段階に入りつつあるといいます。山脇教授は、この段階を「多文化共生3.0」と呼んでいます。

なかでも注目しているのが、企業の役割です。企業は外国人を雇用する主体であると同時に、地域社会を構成する一員でもあると山脇教授は指摘します。

全国の外国人労働者の4人に1人が、東京で働いています。外国人住民の受入れや定着を支えるうえで、企業の役割はますます大きくなっています。こうしたことから、企業との連携なしに多文化共生を進めるのは難しい、と山脇教授は見ています。

近年は、その重要性を企業側も強く認識し始めています。

「この1年ほどの間に、経団連、経済同友会、日本商工会議所が、そろって共生をテーマにした提言を出しています。これは今までなかったことです。そのくらい経済界の問題意識も高まっているので、これからの共生社会づくりにとって、自治体と企業、経済界の連携がとても大事だと思っています」

また、監修者として長く研修を見てきた立場から、山脇教授は研修の役割を次のように表現します。

「多文化共生の課題は、行政が制度や事業をつくるだけでは解決しません。多様な主体との連携が不可欠であり、それらを現場で結びつけ、実際に動かしていく人が必要です。そういう意味で、この研修は単なる研修事業ではなく、東京都の多文化共生施策を現場で実現していくための『人材とネットワークの基盤』をつくる事業だと考えています」

こうした人材やネットワークの広がりに期待を寄せながら、最後に山脇教授は、多文化共生に取り組む方や関心を持つ方に向けて、次のようなメッセージを送りました。

「多文化共生というと、外国語ができなければならないとか、海外生活の経験が必要だと思う方もいるかもしれません。しかし、私は必ずしもそうではないと思っています。

何より大切なのは、自分とは異なる背景を持つ人の声に耳を傾け、地域の課題を丁寧に捉え、その解決に必要な人や組織をつないでいこうとする姿勢です」

山脇教授が語ったように、多文化共生は一人の専門家や一つの組織だけで実現できるものではありません。当財団では、今後も区市町村や国際交流協会、市民団体、企業など多様な主体と連携しながら、多文化共生の現場を支える人材とネットワークを育てていきます。

研修の詳細については、こちらをご覧ください。

多文化共生コーディネーター研修とは | TIPS

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